Xmas


人通りの多い駅前のメインストリートを歩いていると、嫌でもカップルが目に付く。
ばかでかいツリーのてっぺんに光る星を指差して喜ぶ、OL風の女性。
寒そうにしている恋人に自分のジャケットを羽織らせている、背の高い男。
こらこらそこの高校生、いちゃいちゃせずに今すぐお家に帰りなさい。
もう真夜中だというのに、お盛んなことだねぇ。
本当に自慢にならないことだが、僕には年末の賑々しいイベントを異性と共有した経験がただの一度もなかった。
しかし、今年は違う……一人で寂しくホールケーキを突っついてやり過ごす必要も、ない……はずだった。
バイト先のコンビニで知り合った女の子。
僕より年下で、控えめに笑う仕草がとても魅力的だった。
僕は、仕事終わりにそれとなくねぎらいの言葉をかけてみたり、どんなタイプの男が好きか尋ねてみたりして、常に気を引こうと努力した。
その努力の甲斐あって、一緒に映画を観に出かけるくらいの仲にはなったのだ。
だが、勇気を振り絞ってクリスマスの予定を訊いてみると、彼女はにっこり微笑んでこう言い放った。

「あ、ごめん、その日、彼氏と出かけるんだ」

要するに、僕は上手く遊ばれたというわけだ。
そんなわけで、今年も一人。
クリスマスだっていうのに、だ。
……ああ、もう。
思い出さないようにしていても、自分たちの絆を周りにアピールしているカップルが目に入るたびに、僕は自身の間抜けぶりを呪いたくなった。
冷蔵庫のビールが切れたりしなかったなら、こうやって外出するつもりもなかったのだ。
心の中でぶつくさ文句を並べていた時。
ケーキ屋の前でプラカードを持ち、微笑みを湛えたサンタクロースの着ぐるみがユーモラスに動き回っているのが目に入り、僕は立ち止まった。
まだ着ぐるみに慣れていないのだろう、一つ一つの動作が随分と大仰で、まるでディズニーランドのキャラクタみたいだった。
必死で道行く人の興味を引きつけようとしているのが、何だか微笑ましく、そして痛々しかった。
聖なる夜にバイトだなんて、こいつもきっと一人身なのだろう。
全く、こういったイベントで割りを食うのは、いつだって僕とこいつのような人間なのだ。
僕は着ぐるみの中の人物に、心の底から同情した。
ぼんやりとサンタを見つめていると、人通りが途切れた拍子に目が合った。
すると、その赤服のおじいさんは僕のほうに近づいてきて、ケーキ屋のチラシを差し出した。

「こんな日にバイトだなんて、大変だな、あんた。まぁ、人のことは言えないけど」

僕はその紙切れを受け取り、そんなことをぼやいた。
こうして至近距離で向かい合ってみて分かったのだが、サンタは随分と背が低かった。

「寂しく救われない独り者なんだ、僕は。あんたもそうかい?」

オーバに首を二度縦に振る、微笑顔のサンタ。

「もし良かったら、同じあぶれ者同士、これから飲みにいかないか? もちろん僕は、あんたの仕事が終わるまで待つし、金はこっちで持つよ」

サンタは、あごに人差し指をくっつけて思案するポーズをした後、親指をぐっと突き出してみせた。
OKのサインということだろう。

「じゃ、あっちの喫茶店で待ってるよ。終わったら声をかけてくれ」

僕の言葉に、小柄なグランパはこくりとうなずいた。



店内はエアコンがきいていてとても暖かく、頼んだコーヒーも間違いなく熱々のホットだった。
しかし、周りの席がカップルで埋め尽くされているということもあって、僕の胸中は冷え冷えとすさみきっていた。
注文を取りにきたウエイトレスにも陰で笑われているような気がして、ひどく惨めな気持ちになっていた。
一時間ほどコーヒー一杯でねばったが、あのサンタが来る様子はなかった。
まぁ、それほど本気で提案したわけではないし、来ないなら来ないでそれでも構わない、と思っていた。
それに、見ず知らずの奴といきなり酒を酌み交わしたところで、ほいほい意気投合できるはずがないだろう(いや、誘ったのは僕だけど)。
諦めて席を立ち上がりかけた時。

「ごめんなさい、ちょっと遅くなっちゃいました」

後ろから、溌剌とした声がして、肩を叩かれた。

「……はい?」

振り返ると、小柄な女性がそこに立っていた。
年齢は判然としないが……大学生だろうか? 
活発そうな印象を受ける瞳と、肩口でそろえた短めの黒髪。
童顔だが、口元は大人っぽくつややかに光っていた。
その、どことなく背伸びをしている感じに、僕は……なんというか、ぐっときた。

「あの……どこかでお会いしましたっけ?」
「……忘れちゃったんですか?」

右手をひらひらさせつつ、女性は頬をふくらませる。

「同じ独り者同士、今夜は一緒に飲みに行こうって言ったのは、あなたですよ」
「え……ひょっとしてさっきの……」
「そうですよ」

……女の人だったのか。
てっきりサンタの中身はむさい男だと思っていた。

「あの、サンタさん」
「はい、あたしですか?」
「ひょっとしてこれは、『プレゼントはわ・た・し』ってやつですか?」
「何言ってるんです?」
「いや……冗談です」

女性の冷ややかな視線を浴びつつ、僕は思った。
ひょっとしたらクリスマスには、こんな偶然もあるのかもしれない、と。


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