1− 入院して早五日。 最初は一日ぐうたらに寝ているだけでよかったが、ずっとベッドの上にいるとそれ自体が 「 その後ろには 「静鳴、来たのか。なんだか久しぶりだな」 「もう一週間ぐらい会ってないからね。でも、思ったより元気そう」 なんで会う人会う人に『元気そう』に見られないといけないのだろう。 こっちは毎日ズキズキと痛む腹の傷と戦っているというのに。 もっと病人らしい、青い顔になればいいのか……。 「何これ?」 はい、と言って渡された袋を覗き込んで尋ねる。 中には大量の林檎が入っていた。 「ああ、林檎か。ありがとう」 「それねー、蜜がたっぷりでおいしいんだよ。せっかくだから今食べよ」 何がせっかくなのかは解からないが、一人で食べきれる量でもなかったし、見舞いの品とはいえ、俺一人で食べてもしょうがない。 「じゃあ、果物ナイフ買ってきます。病院の売店に売ってるでしょうから」 そういうと絢那は部屋を出ていった。 しばらくすると中庭を歩いていく絢那が見えた。 「退屈だったんだよ、毎日一人で事務所の番してるの」 静鳴はベッドの脇に腰掛けて世間話を始めた。 「静鳴ちゃんと海葉さんのいない間、 「じゃあ、今は?」 「海葉さんが帰ったよ。こんなところ飽きたから帰るって。それで私と交代」 あの人らしいといえばあの人らしい。 それにしても、静鳴は相変わらず元気がいい。 静かな病室に静鳴の声が通って仕方がない。 個室でなければ頭を それとも、よほど事務所が退屈だったんだろうか。 一人で事務所にいた時の 「それにしても、柊は弱いねー。私なら、サッと受け流して一撃で敵を倒してるよ」 「何をっ。お前も俺と同じで病院送りに決まってる」 「負け惜しみはいいから」 「こいつっ!」 そんな調子でいつものように会話をしていると、絢那が戻ってきた。 「相変わらず仲いいですね」 クスクスと笑いながら買ってきたナイフを使って、さっそく林檎を 器用なもので、林檎の皮は薄く長く伸びていく。 剥き終えるとそれを四つに切って、さらにそれぞれ半分に切る。 八つの林檎ができあがった。 俺たちはそれを横から摘む。 静鳴のいうとおり、林檎は蜜をたっぷりと含んでいてとてもおいしかった。 三個の林檎が解体されると、絢那もナイフを置いて林檎を食べた。 三人でこうして雑談しながら何かを食べるのは久しぶりだった。 とても懐かしい風景だ。 しかし、二人の会話を聞いていると、なぜか自分が遠くにいるような感覚に陥った。 どんどんそこから離れていく感じ。 イナクナレバイイノニ―― 心の中で反復される言葉。 とても冷たくて、悲しい。 過去の忌まわしい記憶。 最初の記憶は、五つ。 そして、決して忘れることのないもう一つの記憶が刻まれる。 「どうしたんですか?」 絢那に声をかけられて、はっと我に返った。 皿に載っていた林檎はもうなくなっていた。 「どこか痛みます?」 どういう顔をしていたかは解からないが、そう思われるような表情だったんだろう。 「ああ、大丈夫。ちょっと疲れたかな」 無理やり笑顔を作って安心させる。 「なら、もうそろそろ帰らなきゃね」 二人は立ち上がると、手を振って帰っていった。 俺一人しかいなくなった寂しい世界。 あの時のようだった。 ベッドに身体を預けて、天井を見つめる。 真っ白い天井には清潔感があった。 でも、同時にとても汚れていると感じた。 そう感じるのは、あの日の出来事からだ。 白い棺桶。 揺れるカーテン。 ドアから漏れる光。 四角い部屋。 薬の匂いがする服。 それは……全ての、始まり―― |